食品美容科学研究室では「腸内細菌叢や皮膚常在菌叢を構成する細菌のバランスを整え, 腸内や皮膚の環境改善に寄与する食品(や食品成分)の探索とその活用法の開発」に取り組んでいます。また, 産業廃棄物として処理されている食品にも注目し, 新たな機能性を見出すためのSDGs研究も展開しています。常在菌を意識した食品機能研究とスキンケア研究に関する6テーマの中から, 以下に4つの研究例を挙げます。

研究例1 
マンゴーの未熟果実がアトピー性皮膚炎の対策に !?

ブランドマンゴーの栽培では, 特定の果実に栄養を集中させるために, 約8割の果実を未熟な状態で摘果しています。大量の産業廃棄物として処理される未熟果実に新たな機能性を見出した場合, 産業の萌芽や環境の保全に繋がります。

これまでの研究では, 未熟果実の活用によって ①アトピー性皮膚炎モデルマウスの炎症の抑制, ②腸内有用菌の増殖の促進, ③腸内の短鎖脂肪酸量の増加, を示唆するデータが得られています。これらの知見を踏まえ, 未熟果実の摂取(腸内環境改善)と塗布(炎症抑制)を基盤とするアトピー性皮膚炎に対する新規インナー&アウターケアの構築を目指しています。

研究例2 
泡盛の副産物から乳酸菌飲料を開発 !!

沖縄の伝統的な蒸留酒である泡盛の醸造では, もろみの蒸留後に大量の副産物(泡盛蒸留粕)が生じます。私たちの研究グループでは, この泡盛蒸留粕の液部(もろみ酢)を乳酸菌と酵母による二段階の発酵に供し, 口当たりの良い新規飲料を開発しました。

本飲料の摂取によって,①腸内細菌叢のバランス,②糖質・脂質代謝,③肥満に伴う炎症, 等が改善されることを明らかにしました。現在は, 泡盛蒸留粕を高齢者向けの栄養補助食品として活用するための新たな研究も開始しています。

研究例3 
サプリメントの開発に向けた高機能性乳酸菌の探索 !!

「食品の摂取を介して, 肌質の向上を図る」ことをインナービューティーといいます。この美容概念では「腸内環境の改善」が重要です。そこで, 乳酸菌が示す整腸作用に注目し, 腸内環境の改善に寄与する新規乳酸菌株の探索と, それを活用したサプリメントや発酵乳の開発を試みています。

これまでに36,074株の乳酸菌を対象として, 抗酸化能と有用菌・有害菌増殖能等を検討しました。高い評価を得た3株の乳酸菌をマウスに摂取させたところ, 腸内の有用菌の割合が増大し, 有害物質が減少しました。今後, 安全性試験やヒトに対する摂取試験を予定しています。

研究例4 
美肌菌を増やしてスキンケア !!

美肌菌戻し法では, 顔から採取した皮膚常在菌の中から美肌菌を選抜し, それを培養・増大後に基礎化粧品としたものを, 自分の顔に塗布します。美肌菌の定着により, 保湿力の向上が期待されます。現在では美肌菌戻し法を基盤とした世界初の基礎化粧品の開発にも成功しており, その独創性が高く評価されています。

一方, 最近になって生ゲルマスクに注目しています。この美容パック法では柔軟で平らなゲルを使用するため, 皮膚の微細構造に高い密着性を示し, 美容成分の移行をスムーズにします。また, 防腐剤や不織布を使用しないため, 美肌菌や炎症の制御にも適しています。ゲル化の際に当研究室独自の美容成分を配合し, 新たなプレバイオティクスコスメの開発を目指しています。