はじめまして, 野嶽勇一です。2023年4月に神奈川大学化学生命学部に着任しました。生命機能学科に食品美容科学研究室を立ち上げ, 食品機能, 乳酸菌・美肌菌, 腸内環境, インナービューティー, スキンケアなどをキーワードとする研究に取り組んでいます。ひとことで表現するならば, 「常在菌を意識した食品機能研究とスキンケア研究」になるでしょうか。
さて, 大きな魅力でいっぱいの小さな世界に関するお話を少々。私たちの体には数多くの細菌が生息していることをご存じでしょうか?これらの細菌は「常在菌」とよばれ, 独自のネットワーク(常在菌叢)を形成しています。常在菌叢の中でも特に有名なのが, 40兆個以上もの細菌から構成される「腸内細菌叢」であり, 私たちの健康に大きな影響を及ぼしています。腸内細菌叢の中には乳酸菌, ビフィズス菌, 酪酸菌, 酢酸菌のように有機酸や短鎖脂肪酸などの有用物質を産生する「有用菌」が存在し, 腸内の弱酸性環境を安定させます。このような腸では有用菌の増殖がさらに促進される一方で, 有害菌は減少するため, 腸内環境の改善と血液の質の向上が期待されます。これらの有用菌は免疫, コレステロール生合成, 肝機能などにも影響を及ぼすものもいることから, 健康増進の上では腸内細菌叢を有用菌優勢の状態に保持することが重要です。したがって, 発酵食品(ヨーグルトやキムチなど)に代表されるように, 生きた有用菌を含むプロバイオティクスに加え, 食物繊維やオリゴ糖などのプレバイオティクスを摂取する機会を増やすことが推奨されています。近年では, 有用菌の恩恵をより効率良く享受するために, 有用菌が産生した物質を直接的に活用するバイオジェニックスも脚光を浴びています。